開演前の空気が好き

舞台中心の感想置き場です。

東京バレエ団「かぐや姫」第2幕 感想 ─美しい、けど突っ込みどころが多すぎる

画像は公式HPより引用

 

東京バレエ団かぐや姫」第2幕の世界初演公演のチケットをNBSさんの懸賞に当選したので観てきました(4月末)。

 

公演概要

金森穣×東京バレエ団が贈る、
日本発のグランド・バレエ「かぐや姫」第2幕。
上野の森バレエホリデイに登場!

今回上演される「かぐや姫」第2幕の舞台は、都を統べる帝を中心に大臣や女官たちがひしめく宮廷。欲に目がくらんだ育ての親の翁によって都に連れてこられ孤独を深めるかぐや姫と、月の引力が人々に影響を及ぼすように、彼女によって翻弄される宮廷の様が迫力の群舞を交えて描かれます。
 音楽とダンスの力を最大限に発揮させるため、美術・衣裳は第1幕からより抽象的な表現へと刷新。2023年秋の全編完結に向けてドラマが大きく盛り上がりながら、観客を物語の核心へと導きます。

www.nbs.or.jp

 

振付、パフォーマンス、衣装はとってもよかったけど、正直脚本や設定、一部衣装につっこみどころがありすぎて集中できなかった。
私にしては(?)珍しくけっこう酷評してるので、好きだった!という方は読まない方がいいと思います。ちなみに第1幕は観ていません。

 

全体的に、あえてやってるのか無自覚なのかどうか脚本演出の意図が読めなさすぎて何がしたいのかよくわからなかった、という感じだった。

 

ダンサーについての感想を書かないまま放置してしまったのでかなり記憶薄れてしまったけど、同時上演の「イン・ザ・ナイト」の秋山瑛さんがとっても良かった!
衣装も美術も含めてノイマイヤー作品良かったな…むしろそっちの感想を書いておけばよかった。

 

 

以下ネタバレあります!

 

 

 

 

 

振付

日本的な動きをうまくバレエに落とし込んでいたなと思う。

男性の腕のアンデダンというべきか内旋させたポジション、女性たちの摺り足(男性は摺り足ではないところがちょっと気になったが)、片手を前方水平に上げたまま走る動作(お控えなすってに見えてちょっと笑ってしまったけど)など。

日本的な動きのモチーフがバレエの流線的な動作にうまく織り込まれていて視覚的にも美しく、フォーメーションなども工夫されていてよかった。

 

音楽

びっっっっっっくりするくらい合っていなかった。笑

日本的な文脈、振り付け、衣装、なのに音楽の構成は完全に西洋的。
日本をイメージした音楽というのは分かるぶん、その違和感がすさまじかった。

どういうことかというと、逆に考えてみると分かりやすいと思うのだけど
日本の時代劇で「えらいひと」が登場するときの音ってどういうものだろうか。
お殿様なら太鼓(戦国武将なら法螺貝のこともあるかも)、お公家さんなら笙の音を、少なくとも時代劇を多少観たことがある人であればイメージするのではないかと思う。
つまり誰かが登場する際にジャーン!ドォォーン!!というような大きくて派手な音楽が添えられることは日本の文化においてほとんどないと言っていいと思う。
…のだが、この「かぐや姫」ではそういう場面が非常に多く繰り返されていて正直辟易した。

なんなら帝が出てくるシーンで銅鑼が鳴ったらそこはもう中華なんよ。

200年前に日本旅行に来たイザベラバードさんも言っているけど日本の音楽は「自然の音」で、「いつ始まったのかわからないうちに始まっている」くらい、特に舞や踊りと合わさる際は存在感がありすぎたり旋律が前面に出てくることって(ジャンルによるとは思うけど)滅多にないはず。

そのあたりをわかっててあえて変えてるのかもしれないが個人的には違和感しかなかったし、そんなことはないと思いたいけど全然理解していないのだったら悲しい…

と、こきおろしてはいるものの音楽としてはとても美しかったのでもったいないと感じた。どうしてこうなった感がすごかった。

というか今調べたら音楽ドビュッシーだった(逆になぜ気付かなかったのか)。そりゃ音楽自体はいいわけだ…

 

衣装

・色彩的にもシルエットもとても美しかった。

・特に影姫と側室たちの衣装はかぐや姫の若竹色を際立たせており、コントラストがとてもはっきりしていてよかった。
ただ、かぐや姫と影姫が手を合わせて対称的なポーズをするシーンが(たびたび)あったように思うが、かぐや姫のインナーと衣装がつるつるしていることによってかぐや姫だけ袖がずり落ちてしまっていたのが気になった。
細かすぎるかもしれないけど完璧に対称にしたいのであればそのポーズで衣装がどういう動きをするかも確認するべきではないだろうか…(あえて変えているのなら全然いいのだけど)(←こういうのがめちゃくちゃに多かった)

・道児と農民たちの衣装の色がまったく同じだったため、一見彼らは仲間内なのかとと思ったがどうやらそうではないようで?混乱した。
1幕を見ればわかるのかもしれないが、道児がなぜ暴力を振るわれているのかの理由がよくわからなかったのも相まって謎シーンであった。

 

美術

抽象的ですごく美しかった。
けど、これ日本か……?とは何回か思った。

 

脚本

のつっこみどころ

大変たくさんある、笑えてくるくらい。笑

・まず、基本的に輿に乗る人間は進行方向を向くものだが今回のかぐや姫はなぜか横向きに乗っており違和感が凄かった。体の方向を変えても問題なく登場することは可能なはずなので、知識がないのか、あえてそうしたのかはわからないがなぜこうなった感が強かった。
月の文化ではそうなのかもしれないけど運んでるのは地上の人間ですし…
なお輿の土台は四角ではなく六角になっていた。

・影姫と側室たちの踊りにかぐや姫が混ざろうとするシーン。
世話係に混ざれと言われるがなかなか馴染めない、というシーンのようだが、人を自分で退けてスペース確保しておいてやっぱり無理ですと戻ってきたりとかぐや姫の行動がよくわからない。
そこも含めて異質さを出しているのか分からないが、せめて観客にどこが異質なのか、里(田舎)育ちだから異質なのか、月から来たから異質なのかなどがわかるようにしてほしいと思った。浮世離れしているというキャラクター設定にするのであれば今回の行動は合っていないように思う(我が強すぎるため)
全体的に私たちが慣れ親しんでいる昔話や中学校で習う古文から想定しているかぐや姫のイメージと人格がかけ離れているように感じられて、ちょっとついていけなかった。(これも1幕を見ればわかるのかもしれないが…)

・衣装のところでも書いたが道児が農民たちにボコボコにされる理由がわからなかった。
衣装が同じだから尚更…
かぐや姫が帝に連れて行かれたことを引きずって働かないとか?とも一瞬考えたが、道児が農民たちにやけに見られている描写があったりと、おそらく知り合いではなさそう?
もしそうであるならせめてちょっと色調を変えるとかしてほしかったし、単純にネームドキャラなのにモブに溶け込みすぎているのは問題では?

・なぜか宮中に翁が乱入してくるシーン、どういう警備してるんだよ…と思わず突っ込んでしまった。
しかもそれで結局何をしにきたのかわからない…
そしてかぐや姫は秋見にも翁にもアグレッシブに抵抗して蹴りをお見舞いしたりしているし、宮中に馴染めないのは分かるがそれで世話役や親代わりに反発するという流れは本当に一体何がしたいのかわからない。

 

その他

正室である影姫は「幼い頃に身売りされてきた」という設定のようだが、身売りされるような身分の人が正室に…なる…?しかも帝の?
亡国の姫で身売り同然で宮中にやってきた、とかなら分かるが…
きちんと時代考証してほしいし、言い方悪いけどこういうところで制作者の教養の浅さを露呈していることに気付いていないというのがどうしようもなさすぎる。

・影姫と大臣たち4人との踊りはおそらく眠れる森の美女のローズアダージオをオマージュしているのではと思うが、そのシーンにどんな意味があるのかがよく分からなかった。
美しくはあった。

・なんでフランス語?

 

 

以上です。

もうこういう細かい部分が気になって気になって……

第1幕を観ていないのでそれを観たらわかるところもあるかもしれないけど、多分そういう問題ではないような気がする。
第3幕の初演も終わって次は10月に全幕上演されるようだが、自分でお金を出して観に行く気にはなれないかな……

繰り返すけど前半のノイマイヤーは良かった。ダンサーも質が高かったし。
東京バレエ団の公演ってもしかしたらちゃんと観に行ったの初めてだったかもだけど、特に男性ダンサーの人数と力量の高さにはびっくりした。

 

というような話を、ペアチケットだったことに直前で気づき急遽誘った舞踊科時代の同期ともしながら帰りました。(普段ソロ観劇が多すぎて懸賞のチケットがペアだという認識がなかった笑)